半導体ファウンドリ世界最大手TSMC(TWSE: 2330、NYSE: TSM)の2021年第2四半期決算をまとめました。
この記事を読むと
- Q2業績振り返り
- 今後の業績見通し
- 不足の騒がれる車載向け半導体受給の最新情報
- 最先端プロセス(4nm/3nm)の開発状況
- 台湾国内及び海外(日本/米国/中国)拠点の動向
- 噂のインテル
について知ることができます。
今日の半導体業界はTSMCなしに語れないと言っても過言ではない中で、半導体セクターに投資する全投資家が当社の今四半期業績、今後の業績見通し、そして最先端プロセスの開発状況や製造拠点の動向について頭に入れておく必要であると思います。
噂のインテルについても質疑応答で触れられていましたので、それについてもまとめています。
更新履歴
- 2022年4月23日:サムネイル更新
- 2021年7月24日:タグ更新
決算資料(参照資料)
以下、決算資料のダウンロード先です。
2021年第2四半期業績
CEO・Chairmanメッセージ
以下、カンファレンスコールでのCEO・Chairmanからのキーメッセージをカテゴリ毎にまとめたものになります。
長期的展望
- 5G・HPCといったメガトレンドの存在が今後も最先端プロセス技術の開発を牽引
- TSMCの2020 ~ 2025年CAGR:10 ~ 25%予測(USドルベース)
HPCって何ですか?
HPC(High Performance Computing)は高性能な計算処理能力をもつ計算機環境のことで、動画/画像/音声処理、ニューラルネットワーク(ディープラーニング)を含む機械学習のモデル学習、シミュレーションなどに使用されています。
短期的展望
- サプライチェーンの均衡性と長期的な半導体需要の拡大に注視
- 2022年いっぱいまでTSMCの供給はタイトな状況が続く
2021年通年の業績見通し
- TSMCの売上高成長率:+20%以上予測(USドルベース)
- 他のファウンドリの成長率をアウトパフォーム
- メモリを除く半導体業界全体の成長率:+17%予測
- ファウンドリ業界の成長率:+20%予測
自動車向けサプライチェーン
- 今年上半期は自動車向けIC不足の対策に活動的に取り組んだ
- 強い需要に応えるべく状況に応じて製造キャパを再配置している
- 結果として自動車向けMCU(マイコン)を多く製造することに成功
- 2020年上半期と比較して+30%
- 2021年通年では前年比+60%予測
- パンデミック前の2018年との比較では+30%
- TSMCを利用する顧客の車載向けIC不足は今四半期から徐々に軽減
- 下半期も継続して取り組む
N5(TSMC製5nmプロセス)の量産状況
- 現時点における世界最高のPPA (Performance, Power and Area)を提供する技術
- N5の量産は2年目を迎えており、歩留まりは良好
- 2021年のプロセス別売上高の20%を占めると予測
(参考)Q2業績では売上高の18%がN5でした。
N4(TSMC製4nmプロセス)の開発状況
- N5ファミリーの一つであるN4
- リスク生産:2021年第2四半期(今)
- 量産:2022年
- N4を含んだN5ファミリー採用製品はスマートフォンとHPCを中心に今後も継続的に増加
リスク生産って何ですか?
リスク生産(リスクプロダクション)は、特定の顧客からのチップ生産の依頼を受けることなく半導体ファブ(この場合はTSMC)が独自に先行試験として行う生産のことです。
そもそも本当に需要があるのかも手探りな段階で、半導体ファブが先行投資によりリスクを負うためこう呼ばれています。
N3(TSMC製3nmプロセス)の開発状況
- HPCとスマートフォン向けを両方ともフルサポート
- N3量産初年度で、多数のプロダクトがT/O(Tape-Out)してくれることを期待
- 開発進捗度はスケジュール通り
- リスク生産:2021年
- 量産:2022年下半期
- N5 / N3はTSMCにとって息の長いプロセス技術になると期待
製造拠点
台湾
- N5 / N3ファブ建設中@台南
- 顧客からの強い要請により拡張計画中
- 台湾は今後も研究・開発・製造の中心拠点
米国
5nmプロセスで製造する12インチファブ@アリゾナについて
- 計画スケジュール通りの進捗
- アリゾナファブで働く予定のエンジニアが4月下旬に台湾に到着し、現在5nmプロセス製造に向けたトレーニング実施中
- 量産フェーズ1(2024年):月産20,000枚
- フェーズ1の2024年時点においてもN5ファミリーが米国ファブにおける最先端プロセスである
- 量産フェーズ2(時期未定):米国政府・企業のフルサポートと需要次第ではキャパ拡大を考える
中国
2017年に完成した南京ファブについて
- 2020年第3四半期にフェーズ1(16nmプロセス)完了
- 現時点で月産25,000枚の製造キャパ
- 顧客の強い要請により28nmプロセスを拡充し、2022年下半期より量産開始
- 2023年半ばに月産40,000枚に到達する計画
- 28nmプロセスは、特に、組み込みメモリ用途でスイートスポットとなる
質疑応答
以下、質疑応答をカテゴリ毎にまとめたものになります。
業績について
Q-1
粗利益率低下の要因と長期的目標を50%としている理由について、そして達成可能であるかどうか
A-1
- 利益率低下の短期的要因:1) 為替、2) N5の立ち上げ
- US - NTD為替レートが去年と同水準であると仮定すると粗利益率は52%
- 長期的な要因:1) 最先端プロセス向け設備投資費用の増加
- 最先端プロセス技術適用におけるコストは年々増加
Q-2
地域別売上高を見ると、中国向けがQ1の6%からQ2で11%に改善・成長した要因は?
A-2
- HPCセグメントが強かった
3D ICビジネス
Q-1
売上高における3D ICパッケージングの割合について
A-1
- TSMCのパッケージングビジネス(後工程)の利益率はウエハビジネス(前工程)ほど高くない
- 今年の売上高に占めるパッケージングビジネスの割合は8%予測
- 今後5年間における見解:パッケージングビジネスの売上高成長率 > 社全体の売上高成長率
- パッケージングビジネスの成長率が社全体の成長率より若干高いと見ている
今後の見通し(需給バランス・在庫)
Q-1
いつ頃から半導体の需給バランスが改善すると考えているか?
A-1
- 2021、そして2022年を通して製造ラインはフル稼動
- 現在の半導体IC不足は長期の半導体需要拡大と短期的なサプライチェーンの不安定が原因
Q-2
顧客の在庫見直しの影響を受けるか?
A-2
- 将来的に顧客側で在庫見直しが起こる可能性は0ではないが
- 在庫調整が起こったとしても5G・HPCのようなメガトレンド特需の恩恵を受けるため影響は比較的小さいと考えている
今後の見通し(車載向けIC)
Q-1
今年上半期に車載IDM(NXP / Infineon / Renesas)の稼働率が一時的に下がる中で、現在は回復傾向にある。
今年後半にかけて彼らの製造ラインがフル稼働率に近い状態になると思うが、TSMCへの車載向けICのオーダーが減るのではないか?
A-1
- 心配はしていない
- 車載向けIC顧客はTSMC製の55 / 40 / 28nmプロセスを必要としており、需要は引き続き強く拡大
- 一度製造が採用された製品に対してすぐにオーダーが減るという心配はしていない
- いずれにしても車載向けICの需要は強く、そして供給はタイトであり、2022年も同様の傾向である
製造拠点@アリゾナ
Q-1
2022Q2に装置輸送、2024Q1に量産開始のタイムスケールで現在動いていると思うが、量産開始までの期間が長い理由は何であるのか?
A-1
- 海外拠点における新設ファブなので準備に多くの時間をかけている
- スケジュールの前通しができるように努力している
Q-2
アメリカで前工程 → ウエハを台湾へ輸送 → 後工程 → ICを顧客へ配送
非効率な物流なのではないのか?
前工程施設だけでなく後工程(3D ICパッケージング)施設もアリゾナに建設する予定はあるのか?
A-2
- このような物流(前・後工程の地域が異なる)は現在の半導体業界では普通
- アメリカの大手IC製造企業においても同様
- よって物流面における難しさはないと考えており
- さらに現時点では3D ICパッケージング施設をアリゾナに持つことは考えていない
製造拠点@南京
Q-1
南京ファブの28nmプロセス拡充計画のように、成熟したプロセスの拡充予定は今後もあるのか?
A-1
- 成熟したプロセスは顧客のプロダクト毎に特別なチューニングを施している場合があり、28nmプロセスの"28nm"のような単純な数字として表すことが難しい
- 実際の所、我々(TSMC)は28nmプロセスをカスタマイズした28nm技術("スペシャル28nmテクノロジー"と表現)を多数保有
- これらスペシャルテクノロジーは数多くの顧客要求に応えることができ、結果として付加価値を顧客へ長期的に提供している
- このような成熟したプロセスの需要拡大は今後も続くと予測
- 無論拡充に関しては、顧客からの需要に応える形で投資を行う
製造拠点@日本
Q-1
日本に建設予定のR&Dセンターについて
20以上の日本企業と共同で3D ICのR&Dセンタープロジェクトを進めていると思うが、日本のR&Dセンターが担う役割とは?
A-1
- 最先端の材料・サブストレート技術に関する研究開発拠点
- TSMCが現在取り組んでいる3D ICパッケージング技術は今後のHPC要求を見据えている
Q-2
R&Dセンターだけでなく将来的に3D ICパッケージングの量産体制を日本で整える計画はあるのか?
更に前工程ファブの建設予定については?
A-2
- 共に計画予定なし
N3(TSMC製3nmプロセス)
Q-1
これまでの最先端プロセスを適用したIC製造において初年度はスマートフォン向けICが主流であったが、N3ではHPCが重要になってくるのではないか?
A-1
- N3の量産初年度はやはりスマートフォン向けが大きな役割を担う
- ただ質問の通り、HPC向けも重要
- 我々の予測では今後5年間でHPCセグメントがTSMCの売上高の最大占有率となる
Q-2
N3の立ち上げについて。
N7 / N5の立ち上げはその年の半ばに行なっていたが、N3の立ち上げは2022年下半期になる理由は?
(参考:N7、N5の立ち上げはそれぞれ2018年、2020年の第2四半期であった)
A-2
- N3の立ち上げはN5の時と比較して3 ~ 4ヶ月遅れている
- 遅れの理由:1) プロセス技術、2) 顧客プロダクトの設計、の複雑度が絡み合っている
- 以上から2022年後半からの立ち上げに決定した
Q-3
N3がHPCセグメントへの本格参入であると市場関係者は期待しているが、一方で既存IDMの1社がファウンドリビジネスへの倍加に注力している。
(カンファレンスコールでは名指しはしていないがおそらくIntelのこと)
ファウンドリがIDMからオーダーを受けるとプロダクト製造が重複するように感じるが、製造キャパの割り当て方とIDMとの関係性についてどのように考えているか?
HPCセグメントは今後のTSMCの成長戦略において非常に重要であり、そして、そのIDMはHPCセグメントの最大顧客になり得る可能性を秘めていると思われるが。
A-3
ある部分では協力相手として、そしてある部分では競争相手となっているが、我々(TSMC)の根本的理念は「全ての顧客に対してオープン(開示性)でありフェア(公平性)である」ということ。
つまり顧客のプロダクト成功を第一に考え、それに伴って必要なリソース配分を行うだけである。
まとめ
- 売上は持続的に成長しているが利益率が若干低下
- 2021年上半期は車載向けIC不足の対策に取り組み、前年同期比+30%
- 開発中の最先端プロセス(N4 / N3)の進捗度はスケジュール通り
- 5G・HPCといったメガトレンドの存在が今後も最先端プロセス技術の開発を牽引
- HPCは今後5年間でTSMCの売上高における最大セグメントになる
- アリゾナファブのエンジニアは現在5nmプロセス製造に向けたトレーニング実施中@台湾
- 南京ファブの28nmプロセス拡充&2022年下半期より量産開始(月産40,000枚予定)
では、この辺で。
拜拜~